みなさんは「ひとめぼれ」というものをしたことがあるでしょうか?
もうそんな言葉は死語になり、ひとめぼれといえばお米の名前だと
勘違いしている若い人もいるかもしれません。
それに人間というのは年をとるうちに鈍感になりますから、
ドキっとしてもそれがなんだかわからない。
あれ?なんだろう。この気持ち、と思っていても的確に分からず
そのうち忘れてしまうことが多い。
「ひとめぼれ」というのは、奇跡です。
ひとめぼれは、あふれるほどのイノセントな気持ちと
どこから沸いてくるかわからないものに突き動かされることなんです。
しかしそれを感じる能力をもち、じぶんの中で大切にしなければ、
意味なく消えて行くあわのようなものです。
人生でそんな「ひとめぼれ」というドラマに出会えた人は幸運です。
ところで、ここにひとめぼれをしただけでなく、その後勇気を持って
自分からデートを申し込んだことがある人はいらっしゃるでしょうか?
もちろんひとめぼれというのは、「一目で惚れる」ことですから、
相手のことをあまり知りません。
そのあまり知らない相手に、声をかけれる勇敢な人は何人いるでしょうか?
そしてさらに、その後、運良く相手が承諾してくれてデートの運びとなる
幸運な人は何人いるでしょうか?
そしてさらにさらに、その人が自分が思った通りのステキな人で、
そのデートがとてもすばらしかったといえる人は何人いるでしょう。
わたしは、それは全人口の3パーセントくらいではないかと
考えています。
ここで告白しましょう。
わたしは3年前の寒い冬の夜、
その「ひとめぼれ」を体験したたぐいまれなラッキーな人間です。
その人はわたしの展覧会に来てくれて、その日たった10分ほど
立ち話をした程度の人でした。
なにか分からないけど、もっと話がしてみたいと思った私は
なにげにお酒をすすめました。
(そこは、赤々舎というお酒が飲めるギャラリーです。)
「車で来ているから」とあっさり断られましたが、
すかさず、「え?車?どこからですか?」と切り込み、
「ほうほうー、そんな遠くからですか。よかったら
ぜひ、芳名帳にアドレスを書いて行ってください」
と、書いてもらった、その時です。
その人の美しい字とそれを書く姿を見て、わたしははっきり確信しました。
これはひとめぼれなのだと。
そのはじめての気持ちをどうしていいかわからず、
その晩の飲み会でわたしは写真家の殿村任香先輩に思いきって
相談しました。
すると、
「プチポカさん、アンタここでしっかり女になりぃーや。
いっぱつ告白したってや!やらんといかんでしょうー。
うまくいったら電話してや。合い言葉は「キョーザ」やで〜」
と完璧でほれぼれする関西弁でアドバイスを受けました。
(いまだになぜ合い言葉がギョーザなのか分かりませんが、)
そしてそのアドバイスにしたがって、わたしはその夜その人にさっそく
メールを出しました。
しかも、わたしは初めてのメールで「こんどお茶しませんか」
などという曖昧なことばでなく、
「あと1週間のうちにわたしとデートしてくれませんか」
という脅迫のような告白をしたのです。
わたしはたぐいまれな暑い、熱い人間です。
あと一週間の命だ、、そんな切羽詰まった感があらわです。
お相手もさぞかし驚かれたでしょう。
「。。。」
その後どうなったかと言いますと、わたしはその人と
初々しい静かなお正月デートをすることができました。
明治神宮に行って、おみくじひいて、六本木まで歩いて
ごはんを食べてたくさん話をして帰りました。
わたしよりもずいぶん年下なのに、きちんとはなしができるし、
感覚のいい、頭のいい人なんだなという印象。
わたしの突然、かつ強引な申し込みに気持ちよく答えてくれたその人に
とても感謝しました。
それはアメリカに旅立つ1週間前の出来事でした。
この一度きりのデートの思い出が、今でも私をうす桃色の
気分にさせやさしい気持ちにさせます。
そしてその人からたまにもらうメールにいつも静かな元気と勇気を
もらいます。
あわい。。。それがとてもいい。
こういうのは、とても特別です。
で、何が言いたいかと言いますと、
みなさんもどうかひとめぼれをしてみてください。
恥をかきすてて!
ひとめぼれという奇跡にむかって、チャレンジしてみてください!
それはのちにあっけなく玉砕すること間違いないでしょう。
しかし、それは「生きている」という熱い気持ちを思い出さ
せてくれる大切な経験となります。
まずなにより、そんな一生懸命で無謀な自分がとても
いとおしく思えてくるはずです。
自分のことが、とても愛おしくかわいいと思えたとき
人間はやっと前に進むことができるのではないか、とわたしは
考えます。
「恋せずば人は心もなからまし物のあわれもこれよりぞ知る」
(藤原俊成)
そういうわけでずいぶん遅れましたが、この場をかりて殿村先輩に
お礼を申し上げます。「ギョーザーーーー!!」