いろいろ考えなくてはいけないことは多いが、
日本に帰って一番良かったなと思ったことのひとつは、
やはり家にカメがいたことではないかと思う。
そのカメの名をメコという。
メコはペットショップに熱帯魚を買いに行った妹が、「これ6000円だけど
お姉さんだったら1200円にしてあげる」と言われて買ってしまったカメ
でだそうで。(その値下げ率は、なんだろう。。)
最初は、カメキチというどうでもいいような名前をつけられていたのだが、
広島に帰っているあいだ、となりの奥さんのうちに預けていたら、
メコちゃんという名前に変わって帰って来た。
人のうちに預けたら自分の子供が違う名前になって帰ってきたという
こんな変な話を聞いたことがあるだろうか。
しかし、メコと名前が妙にしっくりきていて、かわいかった。
(メコはミシシッピにおいガメといって水の中で暮らす小さなカメです。
これから50年から60年は長生きするそうです。
付け加えると、メコはなかなかのおじいちゃん顔ですが、
女の子であることが発覚。
さらに言うと、エサをお箸から食べます。エラい!)
メコはわたしが帰国するなり、初めて見るわたしをお母さんだと勘違いして
手足をバタバタさせて喜んだ。
そしていつも水槽の中からわたしのことを目で追っているのだった。
わたしはほだされて、メコのお母さんになってあげてもいいと思った。
それ以来、メコとわたしのお母さんごっこが始まった。
「ただいま〜メコちゃん。おかあちゃまだよー。んまんま食べようね〜。」
メコと目が合ってお互い笑みがこぼれる。
私の至福のときであった。
もし、メコさえよければ、わたしは胸の谷間にメコをそっと入れて
近所を散歩したり写真展にも連れて行ってあげたかったけど。。。
メコは長時間の乾燥が苦手である。
またメコ自身も実際自分のことを人間だと思っているようなふしがあった。
ある朝、水槽にメコがいなくて大騒ぎしたことがあった。
メコが脱出をはかったのである。
(ふたをするのを忘れたのは私である。)
妹が「おねえちゃん!!メコが見つからんかったらどうするんね!!
甲羅が割れとったらどうするんね!!カラカラに渇いて出てきたら
どうするんね!!!」と恐怖の声をあげたので、
わたしは大きく動揺してしまった。
「メコちゃん〜どこー!!!」
テレビをずらしてみたり、布団をめくってみたり、ソファーの下に入って
みたり、妹と必死に探しまわって一時間後。
台所の下のたまねぎのその奥からほこりまみれになって出てきたメコ。
「心配したよー。メコ〜よかったー。」と顔を見たら
その姿は戦いに疲れたぼろぼろの落ち武者のようであった。
まさに「トホホ」と言っているような顔。
とてもまぬけだった。そして、、、かわいかった。
「やれやれ。もうぜったいだめよ!」と言って水槽にふたをして
その後、わたしたちは一息ついてコーヒーを飲みながら、
「考えてみたらメコだってずっと水槽の中はいやよね。
水槽からふんばって這い上がって、床に落ちて、、、、
それでも外の世界を見てみようとしたメコはエラいね。。
チャレンジ精神があるね!!!」と
しみじみメコのガッツを褒めたたえたのだった。
親バカだなあ〜。
そしてなぜわたしがきょうメコのことを書きたくなったかと言うと、
昨日、メコが水槽から落ちても痛くないようにと、水槽のまわりに
豪華なコブラン織のクッションをせっせと敷き詰める夢をみたからである。
自分はマジ母であった。
メコちゃん、お母さんはいまニューヨークです。
つらいけどあなたのためにがんばって働きます。
だからあなたもお元気で。
また手紙書きます。(……..今そんな気分)