2年ほど前、アメリカが不景気のまっただ中の時、「お金に困っている人に現金配布でタイムズスクエアに長蛇の列」というニュースが流れ世間を騒がした。これは実業家 が主催した「救済」イベントだそうで参加者が語る身の上話の内容により現金50ドルか100ドルを手渡すというものだった。どれだけ自分の不幸を上手にプレゼンできるかということなのだろうけれど、わたしはこの時これは日本人のメンタリティではこれはできないだろうなと興味深く思ったのを覚えている.
NYに来てまずいつも感心するのはアメリカ人はよくしゃべるということである。そしてさらにステージに上がってスポットが当たることに慣れているから人前での演説がうまい。そのように小さい頃から学校や社会で訓練されて来ているのだろう。はずかしいからいやいやと言う人をアメリカでわたしはほとんど見たことがない。それを見てはいつもああここはエンターテイメントの国なんだなと感心する。自分はどうやったらあんなエンターティナーになれるのだろうといつも思うのだった。
たとえば、ホームレスの人たちでさえ演説が光っている。地下鉄に乗っているとホームレスの人がやってきてお金を乞うのだけれどその演説の内容はもちろん不幸自慢がベースになっている。そしてそれがあまりにもエキストリームでおもしろい。
わたしはこのあいだまでなるだけそのような人とは眼を合わせないようにしていたのだけれど、最近はそれが始まると待ってましたとばかりに読んでいる新聞を閉じ彼らのプレゼンに食い入るようになった。ひそかに観察し勉強をするのである。そしてたまにいいものを聞かせてもらったなと感動したら(笑えたら)微力ながらポケットに入っている小銭を寄付するようにしている。私のなかで「ずうずうしさ」が高ければ高いほどポイントは高い。
ちなみに最近聞いて印象に残っているのはこんな感じ。
「レディースアンドジェントルマン!私は、38才の無職です。父はアルコール依存症、母は不倫中、妻は120キロもある巨体です。そして妻はいつもダイエットコークばかり飲んでいます。そのダイエットコークを買うのに毎月どれだけお金を使わなきゃいけないと思う?娘は生まれつき体が弱くて病院に入っているけど、出て来てもミルクを買うお金さえないんだから。私も今日寝るところがない。だって妻が太り過ぎてベットに寝れなくなり家を追い出された。だからプリーズプリーズヘルプミー」と言ってた。(この話、決してわたしは脚色をしていない。ほんとにそんなことを言っていた)
さらに次の人は「僕の生活はとにかくたいへんなんだ。医療保護もないし、職もないし家もないし家族もない。でも僕にだって生きる権利があるんだから、あなたに慈悲の心があるならどうか恵んでください。お金がなかったらあなたのバックに入っているリンゴでも食べかけのサンドイッチでも何でもいいです。ください。でも、もしなにもくれるものがなかったらあなたのハグでさえ僕の生きる励みになります。ハグしてください!アイラブユ」という、、、むちゃな熱弁だった。
そのくったくのない演説に度肝を抜かれ感心して見ていると、驚くべきことにけっこう多くの人が笑いながらお金を恵んであげていて、しかもなんとわたしの隣の人にいたっては自分がちょうどまさにつけようとしていたハンドクリームをその人にも丁寧につけてあげていた。。。。ありえないけどおもしろい。その身の上話を聞いて悲しくなって泣けてくるというわけでもなくなぜか笑ってしまい拍手してしまいたくなるのだからこれも一種のエンターテイメントだと思う。ここは不思議な街だなと思う。こんなときまた生きる勇気をもらう私なのだった。
ちなみに長い間観察をしていて分かったことがある。臭い人や陰気くさそうなホームレスには乗客は眼を伏せて知らんぷりだが、パフォーマンスが堂々としていてフットワークのよいホームレスには乗客はチップをあげやすい。ポイントは「軽やかさ」なのだと思う。「哀れ」なのことを軽やかに堂々とやると、人はぎゃくにそれに気持ちよさを感じるのかもしれない。
あっぱれ!
私は、ホームレスのダンスパフォーマンスを知っている。
新人賞おめでとう!